藤田嗣治が担当した舞台美術を、彼の芸術活動全体の中に位置づけて詳細に検討した研究である。論文ではまず、戦後間もない時期に日本人画家である藤田が、ヨーロッパ最高峰の歌劇場で舞台美術を任された歴史的背景を整理し、当時の藤田が「日本性」をどのように意識し、また期待されていたかを明らかにする。次に、舞台装置や背景画の具体的な構成、色彩、線描、モチーフを分析し、藤田の絵画に特徴的な繊細な線や平面的構成、装飾性が、オペラという立体的・時間的な舞台空間にどのように転用されたかを考察する。同時代の舞台美術やオリエンタリズム表現との比較を通して、藤田の舞台美術が単なる装飾ではなく、異文化間の翻訳行為として成立していたことを示し、このスカラ座《蝶々夫人》が藤田嗣治の国際的芸術実践における重要な到達点であることを結論づけている。